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【本】『珠玉』開高健

宝石を題材にした開高健の小説。

 

...交通事故があったらしく、二台の自動車が大破したままでからみあっている。ガラスの細片が水晶の粉のように散乱し、血が何滴か光っている。発生してからちょっと時間がたったところらしくて、車体、タイヤ、ガラス屑など、すべてが形の内部に閉じこめられてうずくまっている。

このあたりがいい。ナチスの「水晶の夜」を想起させなくもない。開高先生もどこかで言及してた。ナチスは自分たちの所業を美化させることに関しては天才的だった、ということの一例として。

形の中でうずくまっているモノ。それが生を帯びて、動き出す瞬間を捉えるのが、開高文学なんでは。『夜と陽炎』を読んだ後だけに、余計そう思う。

 

(上の続き)夕刻の暗みがかった光のなかで血の滴だけが生のままで輝いているが、あとしばらくで形の中へ引揚げることだろう。どの滴も中心が暗く、深く、濃くて、ガーネットにそっくりだけれど、匂いがたつほどおびただしくはないので、凶々しさが淡い。

血の輝きを見て、ガーネットを思い出す。あらゆる事物を、ガーネットの比喩として見てるような感じだ。逆に、ガーネットを見ることで、色々な光景やイメージを想起するということもある。曰く、「心に核ができる」。

そういう、心の核としての宝石。わかるような気がする。実際は、宝石でもなんでもない何かが、その核の役割を持っていたりするんだろう。それが何かは自分でも分からない。