大正式散歩。『古本とジャズ』植草甚一

角川発刊の『ランティエ叢書』というアンソロジー本のシリーズの中の、植草甚一

 

自分の散歩は「大正式散歩」だと語っているところがよかった。

自分は大正生まれの人間だから、ゆっくり歩く。永井荷風など明治の人間は「明治式散歩」で、もっと遅かったはずだ。最近の人間は、どんどん歩くのが早くなっている。

 

このあいだ、経堂を散歩した。経堂は植草甚一が住んでいた街だそうだから、読後感を引きずって行ってみたんだ。目的地を成城学園前駅に決めて、そこへの最短ルートをグーグルマップで調べて、何かと競うように、何かに追われているように急ぎ足で歩いた。ずっと何かを思い詰めていて、周りの街並みを見る余裕はなかった。道を間違えてイライラしたりしていた。そんな馬鹿げた散歩をしているときに、上の一節をふと思い出した。示唆を与えられた気がした。

ゆっくり歩くと、周りの景色がよく見えるようになった。梅の花、何枚も干された白いシーツ、野菜直売所のおばさんが使っていた相当古い型の電話(大きな金色の受話器を壁に掛けるようなタイプ)、手作り感溢れる「この先行き止まり」の看板(誰かが親切で設置したのだろうか?)。

そういうものを見て回るのは、気持ちのいいことだった。