【本】『人生逃亡者の記録』きだみのる

開高健センセイが名文家として尊敬していたという。

「いい文章を書く秘訣は?」という質問に「セックスを横向きですること」と答えたというエピソードからして、タダモノじゃない。

きだみのるの文章にぶつかってみた。

 

1895年生まれ1975年没。

幼少期は鹿児島で育ち、その後台湾、そして東京。

鹿児島の中学時代のエピソードに驚いた。

「尻突き」、いわゆる「釜掘り」が男子学生の性欲処理として常習的に行われていたという。

鹿児島の上流階級の子弟が通う学校だから、「武士の文化」としてそういう風習が残ってたんだとか。

これが100年ちょっと前のはなしだもんなぁ。

 

この本は自叙伝で、作者である「おまい」が自分の人生への態度ー「人生逃亡者」として生きるーを決めるまでの過程に焦点が当てられている。

東京での学生時代に、自殺未遂をしている。

その方法は、ボートで海に漕ぎ出して、友人の机の中から盗み出してきたコカインをブランデーで飲む、というものだった。

この死に方の選択が「人生逃亡者」らしいと思った。

ロマンチックなんだ。

それでいて絶望してるんだ。

開高センセイにもそういうところがある。

 

本の最後に、長生きすることだ、と言っている。

 

もう一度繰り返そう。長生きすることだ。

そうすれば、新地獄・極楽の布教者たちのそのときどきの所論の適否、正誤がわかるだろう。

そして現役の人間としてくたばることだ。

そうしたら子供の世話になるという屈辱的な考えを起こさずにすむ。

子供は子供。

親は親だよ。

そうだろう。

 

「逃亡」とは「自由」であり「自立」であるのか。

おれが望んでいるのも、そういう種類の「逃亡」なのか。